豆腐屋の朝は早い。
樽見鉄道の北の終点「樽見駅」から徒歩3分の場所にある、「うすずみ特産」の加工場。朝8時半にうかがうと、真っ白な調理服姿の2人が、この日2回目の豆腐づくりにとりかかっていた。
「はいっ、仕事始めの一杯」。松葉久仁子さんが出してくれたできたての豆乳は、丸大豆の甘みが豊かでまろやかだ。
「豆腐屋にしては、うちは遅い方ね」。小野島安子さんが笑う。2人は毎週月金の2回、朝7時15分に加工場に来て、豆腐づくりをはじめる。
原料となる丸大豆は、本巣市や揖斐川町産のものを使用。煮たてた大豆を絞り機に流し込むと、もくもくと湯気が上がった。
もめん豆腐、寄せ豆腐、豆乳、おからを、同時進行で手際よくつくっていく。
うすずみ特産での豆腐生産が始まったのは、いまから20年以上前。旧根尾村が、地域の特産品づくりの一環としてスタートした。
最盛期には10人以上の体制で生産。厚揚げや混ぜごはんの具など、生産する商品のバリエーションも豊富だったという。
根尾地区の人口は、2004年の合併直後には2200人超だったが、現在では約1200人にまで減った。うすずみ特産の生産体制も次第に縮小し、4年前、その担い手は松葉さん一人に。
「私はこれを残したい」
運営会社にそう言ってかけあった。豆腐づくりは一人ではできないから、近くで旅館を営む小野島さんに手伝いを依頼。生産を存続させた。
「せっかくみんな喜んでくれる。ここまで続いてきたものを、自分の代でやめるのは悔しいから」。松葉さんはそう振り返る。
午前10時過ぎ。豆腐製造がひと段落したころ、顔見知りの常連客がぽつぽつと豆腐を買いに来た。「1丁でいいの?」「おからは?」。2人がほがらかに出迎える。
商品は道の駅にも並べられるほか、近所の喫茶店がランチに出したり、パン屋が豆乳テーブルロールにしたりして提供している。
「まだまだ、這いずってでもやるよ」
喜んでくれる人がいるから、2人の豆腐づくりは続いていく。
(2022年5月取材)