米作り 農事組合法人「とやま」後藤寿太郎さん


 コンバインが、実った稲穂を吸い込んでいく。

 コンバインは、まるで山へと吸い込まれるように進んでいく。

 9月末、農事組合法人「とやま」が管理する田んぼでは、稲刈りシーズンの最終盤を迎えていた。

 

 収穫に勤しむ仲間たちの姿を、代表の後藤寿太郎さんが安堵の表情で見守る。

 「雨やウンカやカメムシやらで困ったけれども、今年もこうして収穫ができて何よりやね」

 

 山あいでの米作りは「三重苦」が付きまとうのだそうだ。

 

 その一、非効率であるということ。

 

 山ぎわのこの地は傾斜がある。そこに水平の田んぼが整備されているため、畦が大きい。

 畦が大きいと、草刈りが大変だ。

 草刈りの大変さは、米作りの大変さにそのまま比例する。

 

 田んぼの大きさや形も、農作業を非効率にさせている。1枚ごとが小さく、いびつ。

 広々と、きれいな四角形に土地改良された平野部の田んぼとはそこが違う。

 

 5月には、L字に曲がった田んぼで旋回を繰り返す田植え機の姿があった。

三重苦の二つ目は、収量に差が出るという点だ。

 

後藤さんによると、1反あたりの収量は南部で89俵なのに対し、とやまが拠点とする北部では通常7俵ほど。日照時間や気候の違いが、どうしても収穫量の差となって表れてくる。

 

そして三つ目は、鳥獣害。

山に住むシカが入ってきては、田んぼ内を踏み荒らし、稲をはむ。周囲は獣害防止柵でぐるりと囲ってあるにもかかわらず、だ。

 

「田んぼだけじゃなくて、みんな畑のものまでやられている。サルが栗を食べにくるし、イノシシが野菜を食べにくる。収穫の希望とか、食べる楽しみが失われるということに、一番ガックリくるね」

 

 

 それでもこの地で米作りに励むのは、それらを上回る地域への思いがあるからだ。

 後藤さんは外山で生まれ育った。

 大学進学を機にいったんは名古屋に出たものの、長男として実家を継ぐため、就職後まもなく戻ってきた。

 

 長年この地域に身を置き、周囲の変化を肌で感じるようになったのは、ここ10年ほどのことだ。

 

「田んぼが目に見えて荒れてきてね。僕が小さいころは、まだまだ田畑は大事にされていた。それがだんだんと変わってきて、50年経ったいまでは引き受け手さえいなくなってしまった」

 

草だけが生えていく田んぼ。ますます高齢化が進む中、誰かが担っていかないといけない。

 個人で管理ができなくなった田んぼを引き受けるため、2019年、とやまを立ち上げた。

 とやまはいま、木倉(こくら)・川内(かうち)の2集落にある田んぼ25町歩のうち、15町歩を管理している。

 

 「もうできない」「来年から預けたい」

 担い手がいなくなった農家から声をかけられる形で、作付面積は毎年ちょっとずつ広がっている。

 何よりやりがいを感じられるのは、「うまい」と喜んでくれる人たちの声だ。

 

 後藤さん自身も、もちろん「外山の米はおいしいと自信を持っている」。

外山の田んぼには、すぐそこの山からの水がたっぷりと流れ込んでいる。

 

「チームとやま」のメンバーは、602人と702人の計4人。大変だという米作りも、頼もしく、愉快な仲間がいるからやっていける。

 「僕らができるだけのことをやって、地域の田んぼを次の世代へとつないでいきたいね」

 

 収穫が終わったら、もう翌年の準備が始まる。

 まずは新たに任された田んぼへの、獣害柵の設置だ。

(2022年9月取材)